<コラム>危機管理広報とは?

危機管理広報とは、組織が直面する可能性のある危機や緊急事態に対して、迅速かつ適切に対応し、組織の信頼性や評判を守るための広報活動を指します。
ややハードルの高い難しそうな広報活動に感じられますが、単なる「危機時の広報のあり方」というより、「組織のリスク管理のあり方のひとつ」と捉えると良いでしょう。

◆危機管理広報のはじまり

1906年、アメリカで大きな鉄道事故があり、この鉄道会社は事故発生後、積極的に情報を公開したと言われています。結果、この広報活動は会社の信頼を回復するための第一歩を踏み出すことになり、今でも企業の危機管理と広報活動の重要性を示す一例として評価されています。
一説にはこの一連の対応が広報の始まりと言われ、特に危機管理広報の原点として語られています。

反対に、今年起きたフジテレビの記者会見対応は、危機管理広報の失敗例として歴史に名を残すでしょう。
メディア側でありながら1度目の記者会見を閉鎖的な環境で開催してしまったこと、2度目の記者会見に至る後手後手の対応、広報全体を通しての説明不足、歯切れの悪さなど、危機管理広報の「悪手」をすべて実行してしまったといえるでしょうか。

業務上の危機は災害にも似ていていつ起きるかわかりません。危機が起こると、平時では考えられないくらい神経を使った対応をしなければいけなくなり、迅速性も求められます。
また、現代社会では、トラブルなど話題になりやすい情報はSNSやインターネットを通じて一瞬で拡散されます。

それゆえ、組織が危機に直面した際には、迅速かつ正確な情報発信が求められます。適切な危機管理広報が行われることで、組織への信頼感を取り戻し、風評も最小限に抑えることができます。
危機は発生の予測ができないことから、事前に対応策を準備しておく必要があります。万が一の「危機」というリスク要因の対策を平時のうちに準備しておくことが肝要だということです。

◆危機管理広報で押さえるべきポイント

危機管理広報の基本は、危機発生の事実を速やかに把握・判断・公表し、憶測やデマの拡散を防ぐことを含め、信頼を失わずに組織を守る、あるいは継続させていくことにあります。
では、どのような準備が必要なのでしょうか。

<①危機管理体制の構築>

危機管理体制の骨格となる、危機発生時の伝達経路を構築します。
組織によりさまざまな伝達経路が想定されますが、すでにある業務上の組織体系に合わせて作ることが一般的です。
危機発生部署、広報担当、経営層など必要な社内関係者をつなぐ経路を構築します。
単に伝達経路を構築するだけでなく、情報を共有しやすい雰囲気づくりやルールづくりも同時に進めていく必要があります。

<②危機管理マニュアルの作成>

実際に危機が起こった際の対応マニュアルを事前に作成しておきます。
「そもそもどんな危機が起きうるか」という想定から、実際にそうした危機が起きてしまった場合の対応方法まで、想定しうる限り明文化します。
危機管理体制の伝達経路における各関係者が、危機発生時にどのように動くか、誰が外部への情報発信の最終判断をするかなど、できるだけ詳しく想定しておくと良いでしょう。
また、危機管理マニュアルは作成した時点で固定するものではなく、組織変更や社会情勢なども鑑み、常に更新していくものとして扱うようにしてください。

<③情報を発信するチャネルの整備>

危機の際に情報を発信するチャネルは多い必要はありません。
例えば、日頃SNSなどさまざまなチャネルから情報を発信していたとしても、危機事案に関してはウェブサイトだけから情報を発信する、と決めることもあり得ます。
また、既存取引先へは直接対応する場合も想定し担当窓口を明確にしておく必要があります。従業員に対してもどう説明するかも考えておきます。
重要度合いによっては報道機関との連携も必要になるため、情報が一元化されるような統制と情報発信の窓口となる部署や担当者も決めておいたほうが良いでしょう。

<④シミュレーション>

せっかく作った危機管理体制やマニュアルが実際に機能しなければ、絵に描いた餅になります。
トラブルが起きた場合、現場からどのように情報が上がり、どう状況が把握されるか。また誰がどう内容を判断し、最終的に発信する情報を書き起こすか。さらに情報が対外的に発信された際、取引先にどう伝達するか、社員に対してどう伝えるか・・・。
危機の際には複雑な状況や感情が生じるため、事前に準備したマニュアルだけでは予測がつかないことも起こりえます。そのため、事前にマニュアルを活用しながらシミュレーションをしておくことがとても重要となります。
実際にシミュレーションをしてみて、問題箇所が見つかればひとつリスクが回避されることにもなり、もう一段精度が上がった危機管理広報へと昇華します。

危機管理広報を実現する準備は簡単ではありませんが、危機が起きてから慌てて対応するより事前に準備しておいた方がはるかに労力は少なくて済みます。
いま一度、自社の危機管理広報への対応が十分かどうか、確認いただくのをおすすめします。

2025.02.20